監督:吉田大八
出演:長塚京三、瀧内公美、河合優実、黒沢あすか、中島歩、カトウシンスケ、高畑遊、二瓶鮫一、髙橋洋、唯野未歩子、戸田昌宏、松永大輔、松尾諭、松尾貴史
制作:ギークピクチュアズ/2023
URL:https://happinet-phantom.com/teki/
場所:ユナイテッド・シネマ浦和

筒井康隆の小説を『桐島、部活やめるってよ』の吉田大八が映画化。

筒井康隆の小説を原作とした映画化作品は『時をかける少女』『ジャズ大名』『怖がる人々』『パプリカ』と有名どころはそれなりに見たことがあるのだけれど、筒井康隆の小説を一つも読んだことがないので、このバラエティ豊かな様々なジャンルの映画群からは筒井康隆の小説のイメージを決定づけるものはなにもなかった。もしかすると筒井康隆と云う小説家はつかみどころのないところが魅力的で人気があるのかもしれない。

今回の『敵』も、今までの彼の映画化作品とはまた違ったジャンルの映画だった。

この映画の主人公はフランス近代演劇史を専門とする元大学教授。妻・信子に先立たれ、都内の山の手にある実家の古民家で一人慎ましく暮らしている。講演や執筆で僅かな収入を得ながら、預貯金が後何年持つのか、それが尽きたら終わりを迎えようと計算しながら、来るべき日に向かっておだやかに暮らしている。老いさらばえて終わりの見えない醜態を晒すよりも、しっかりと終わりを決めて、それまでの日々の生活を充実させようと考えている。

だがそんなある日、パソコンの画面に「敵がやって来る」と不穏なメッセージが流れてくる。

「敵」ってなんだろう? がこの映画の大きなポイントになる。それは監督の吉田大八もコメントしている。この映画に出てくる元大学教授の夢の中に、「敵」とはメタファーだ、と云うシーンがあるので、それは単純な外から来る「敵」ではなくて、おそらくは元大学教授に迫りくる「老い」から来る「敵」としか考えられなかった。

映画は後半に向けて、現実とも夢とも判断がつかないシーンが増えていく。「老い」には「認知」に問題が生じることも含まれるので、そこを象徴したシーンに見えなくもない。元大学教授も、自分なりの理想的な老後を計画していても、そこまで考えが及んでいなかった「敵」によって大きく生活が乱されてしまう。老いると云うことは、どんなに抗っても、醜態を晒すことなんだろうとおもう。

とても映像化に向いている作品に見えるけれど、筒井康隆のコメントに「すべてにわたり映像化不可能と思っていたものを、すべてにわたり映像化を実現していただけた。」とあった。え? 小説ではどんな文章表現をしているんだろう?

→吉田大八→長塚京三→ギークピクチュアズ/2023→ユナイテッド・シネマ浦和→★★★☆