監督:ナナ・ジョルジャゼ
出演:ラティ・エラゼ、タマル・タバタゼ、ナティア・ニコライシュビリ、アナ・クルトゥバゼ、ギオルギ・ツァガレリ、ブバ・ジョルジャゼ、タマル・スヒルトラゼ、タマル・ブズィアバ、マイケル・レスリー・チャールトン
原題:პეპლების იძულებითი მიგრაცია/Forced Migration of Butterflies
制作:ジョージア/2023
URL:https://moviola.jp/butterfly/#yokoku
場所:新宿武蔵野館

昨年の10月26日に実施されたジョージア議会選挙は、ロシアに融和的な姿勢を示す政党「ジョージアの夢」が54%の得票率で過半数の議席を獲得した。しかし野党は選挙に不正があったとして、国会議員らの間接選挙で選ばれた「ジョージアの夢」が支持するミハイル・カベラシビリ大統領を認めず、親欧米派のズラビシビリ大統領は退任を拒否する混乱が続いている。

ロシア、アジア、中近東、ヨーロッパの十字路に位置するジョージアは、歴史的に様々な国の脅威にさらされてきた。近代では長らくロシア帝国、そしてその後のソ連に支配を受けてきたことから、そして2008年に起きた南オセチア紛争などから、現在のプーチンのロシアに反発する人が多いとおもっていた。でも、議会選挙にロシアが暗躍したとしても、旧共産圏で「ソ連のときのほうが良かった」みたいな郷愁が生まれているように、欧米寄りに進むことへの不信感と云うものが芽生えてきているのも確かのような気もする。

そのようなジョージアの人々の暮らしって、どんなものなだろう? を知る良い機会だとおもってナナ・ジョルジャゼ監督の『蝶の渡り』を観てみた。

ストーリーは、半地下にある画家コスタの家に集まる芸術仲間たちの人間模様だった。みんな才能があってもうまくいかず、生活は困窮するばかりの人びと。そこにコスタのかつての恋人ニナが戻ってくる。再会を喜ぶ二人はコスタの家で暮らし始めるんだろうな、とおもいきや、ニナはコスタの絵を買いに来たアメリカ人の美術コレクター、スティーブにくっついてさらりとアメリカに渡ってしまう。

映画の題名「蝶の渡り」は、コスタの書く絵から来ている。風に乗ってコーカサスの山々へ移動する蝶を描いている。その説明を聞いたアメリカ人の美術コレクター、スティーブは、逆の風が吹いたらどうするんだ? の質問をコスタに投げかける。ああ、「蝶の渡り」ってニナのことだけではなくて、ジョージアの人びと全般のことも指しているのか、と気がついた。逆の風が吹いてもそちらへ渡ってしまうのがジョージア人なのか? それは「日和見」のようなものではなくて、もっと自然に、蝶のようにふらりと渡ってしまうんじゃないのかと。

半地下にある画家コスタの家はいつも宴会のように賑やかだ。みんなそれぞれ悩みがあるのに、過去の辛い体験もあるのに、楽しそうにしている。今度はどうするんだろう? ロシアに渡るのか、EUへ渡るのか。

→ナナ・ジョルジャゼ→ラティ・エラゼ→ジョージア/2023→新宿武蔵野館→★★★