監督:ペドロ・アルモドバル
出演:ティルダ・スウィントン、ジュリアン・ムーア、ジョン・タトゥーロ、アレックス・ホイ・アンデルセン、ヴィクトリア・ルエンゴ、フアン・ディエゴ・ボット、アレッサンドロ・ニヴォラ
原題:The Room Next Door
制作:スペイン、アメリカ/2024
URL:https://warnerbros.co.jp/movies/detail.php?title_id=59643&c=1
場所:MOVIXさいたま

ペドロ・アルモドバルの映画をあまり観なくなっってしまったのだけれど、ティルダ・スウィントンとジュリアン・ムーアの共演と云うことで久しぶりに食指が動いた。

相変わらずに情報を仕入れずに観に行ったら、映画のテーマは「安楽死」だった。

戦地を取材する記者のマーサ(ティルダ・スウィントン)は末期がんを宣告される。ネットで違法の薬を手に入れて「安楽死」することを決意するが、それを決行するまでのあいだ誰か知人がそばに居てくれることを願う。でも親しい友人たちには、その行為に恐れを抱かれてすべて断られてしまう。そこでむかし雑誌社で一緒に働いたことがあって仲の良かった、今は作家のイングリッド(ジュリアン・ムーア)に連絡を取る。驚くイングリッドだけれど、最近自分の書いた小説のテーマが「死」でもあることから承諾する。

映画のタイトル「The Room Next Door」は、「安楽死」を決行するマーサを見守るために用意されたイングリッドの部屋のことを指している。いや、逆か? イングリッドから見たマーサの部屋のことか? 実際には階下の部屋だったので「Next Door」では無いのだけれど。

「安楽死」を扱っている映画と聞けば重くずっしりとしたものを想像してしまう。でも、ペドロ・アルモドバルの映画なので、病気をかかえて痩せ衰えたマーサをしっかりとスタイリッシュなアート作品の数々が包みこんでいて、そこに死にゆくものへの悲壮感はまったくなかった。

「安楽死」を選択する理由もしっかりとしていた。イングリッドから今までで一番印象に残っと戦地はどこ? と聞かれて「ボスニア」と即答したマーサ。隣同士が敵味方に分かれて殺し合ったボスニア紛争のような地獄こそが、マーサにとって生きている実感が湧く場所だった。そのような地獄へ戻れないのなら、もう終止符を打たざるを得なかった。

ジョン・ヒューストン監督の遺作『ザ・デッド/「ダブリン市民」より』(1987、原作はジェイムズ・ジョイスの短編「死者たち」)の内容はすっかり忘れていたのだけれど、そのラストシーンだけは覚えていた。昔のアイルランドのダブリンにひらひらと舞い落ちる雪の美しさ。それがこの映画のラストに引用されていて、マーサが亡くなったあとに降る季節外れのピンクの雪とオーヴァーラップされていた。その雪はまるでマーサの魂のようで、イングリッドの上にも、彼女の娘(ティルダ・スウィントンの2役)にも厳かに降り注ぐ美しいラストシーンだった。

→ペドロ・アルモドバル→ティルダ・スウィントン→スペイン、アメリカ/2024→MOVIXさいたま→★★★★