監督:ブラディ・コーベット
出演:エイドリアン・ブロディ、フェリシティ・ジョーンズ、ガイ・ピアース、ジョー・アルウィン、ラフィー・キャシディ、ステイシー・マーティン、アレッサンドロ・ニヴォラ
原題:The Brutalist
制作:アメリカ、イギリス、ハンガリー/2024
URL:https://www.universalpictures.jp/micro/the-brutalist
場所:MOVIX川口

今年のアカデミー賞の主演男優賞は『ブルータリスト』のエイドリアン・ブロディが獲った。多くの人が『名もなき者/A COMPLETE UNKNOWN』のティモシー・シャラメが獲ると予想していた中での授賞だった。たしかに『名もなき者/A COMPLETE UNKNOWN』のティモシー・シャラメは素晴らしかった。エイドリアン・ブロディはすでに『戦場のピアニスト』(2002)で主演男優賞を獲っているのでティモシー・シャラメでも良かったような気もするけれど、そのときのアカデミー会員の気持ちや機運次第だからなあ。しょうがない。

その『ブルータリスト』を観てみると、確かにエイドリアン・ブロディの演技も素晴らしくて、主演男優賞を獲ってもおかしくない演技だった。そこに異論を挟む余地が無いことがわかった。まあ、演技に優劣をつける事自体に無理があるので、ノミネートされることだけでもっと名誉を授けても良いような気がする。

ホロコーストを生き延びてアメリカへと渡ったユダヤ人建築家の30年にわたる数奇な運命を描くこの映画は、なんと35mmビスタビジョンで撮られていて(今のシネコンじゃフィルム上映じゃないだろうけれど)、まるでセシル・B・デミルの『十戒』(1956)をおもい出させるような壮大な叙事詩だった。前半100分、後半100分の間に15分のインターミッションを設けるなど、むかしの長編大作映画のつくりを模倣しているところも映画ファンにとっては嬉しかった。でもインターミッションって、昔は嬉しかったけれど今は少し手持ち無沙汰だった。

エイドリアン・ブロディが演じている建築家ラースロー・トートは、ガイ・ピアースが演じているアメリカの実業家ハリソン・ヴァン・ビューレンの要請で、ペンシルベニア州ドイルスタウンの小高い丘に、ハリソンの母親の名を冠した「マーガレット・ヴァン・ビューレン・コミュニティセンター」を建築する。しかし、このハリソンのラースローに対するリスペクトからはじまったプロジェクトが次第におかしな展開を見せて行き、二人の関係も複雑さを増して行く。あからさまに愛情や嫉妬、支配や開放、同情や反感を見せることなく、でも根底にはしっかりとそのような人間の情念が存在している静かな緊張感が、まるでポール・トーマス・アンダーソンの映画のようで、とても心地よかった。

複雑な人間関係は、アメリカへ渡って来たラースローを助ける彼のいとこアティラ(アレッサンドロ・ニヴォラ)とその妻オードリー(エマ・レアード)との関係からすでにはじまっていて、ラースローがヨーロッパから呼び寄せる妻エルジェーベト(フェリシティ・ジョーンズ)と姪ジョーフィア(ラフィー・キャシディ)との関係もしかり。だから、唯一わかりやすい行動を見せるハリソンの息子ハリー(ジョー・アルウィン)の俗っぽさが際立ったのはおかしかった。

ストーリーがいったいどこに向かうのかまったく予測がつかない215分間はあっと云う間だった。だから、インターミッション無しで一気に見てもまったく問題なかった。

→ブラディ・コーベット→エイドリアン・ブロディ→アメリカ、イギリス、ハンガリー/2024→MOVIX川口→★★★★