監督:アレクサンダー・ペイン
出演:ブルース・ダーン、ウィル・フォーテ、ジューン・スキッブ、ステイシー・キーチ、ボブ・オデンカーク、マリー・ルイーズ・ウィルソン、ミッシー・ドーティ、アンジェラ・マキューアン
原題:Nebraska
制作:アメリカ/2013
URL:http://nebraska-movie.jp
場所:新宿武蔵野館
ネブラスカには娯楽がカレッジ・フットボール観戦しかない、と聞いたことがある。アメリカのちょうどど真ん中に位置するネブラスカ州には何にもなく、人々の楽しみと云えばネブラスカ大学リンカーン校の活躍くらいだと云うのだ。そのネブラスカ大学リンカーン校も最近は精彩がなく、1997年に全米チャンピオンに輝いたっきり、APのTOP25にはランキングされるものの、リンカーンの街が全米の注目を集めることはなくなってしまった。ネブラスカのイメージと云えば、たったそれしかない。リンカーンの街自体のイメージも、リンカーン校のキャンバス内にある8万人収容のメモリアム・スタジアムくらいしかない。
『ネブラスカ ふたつの心をつなぐ旅』は、100万ドル当たったと信じ込む年老いた父親と、そんなものは詐欺だと云いつつも付き合ってしまう人の良い息子の、その当選金を受け取るべくモンタナ州のビリングスからサウスダゴタ州のラシュモア山を経由してネブラスカ州リンカーンへと向かうロード・ムービーだった。自分にとってあまりイメージのなかったネブラスカ州の街並みを存分に見せてくれる。でもその街並みは、スティーヴン・スピルバーグの『未知との遭遇』のワイオミング州とも、デイヴィッド・リンチの『ツイン・ピークス』のワシントン州とも、フレデリック・ワイズマンの『州議会』のアイダホ州ともあまり変わらないと云うか、よくあるアメリカの田舎の風景だった。
そしてやはり、ネブラスカに住む人たちの週末の楽しみはフットボールだった。ただ、ネブラスカ大学リンカーン校の停滞が象徴するように、親戚の老夫婦とまるまると太った従兄弟たちがアメリカン・フットボール観戦のためにテレビを囲むシーンは、まるで底に溜まった沈殿物のような、もうすでに終わってしまった残滓でしかない人々の集いでしかなかった。そんな中で唯一、活動的に行動しているのが100万ドル当たったと信じ込む老人だけで、その思い込みがきっかけで色めき立って活性化する街の人々や、溝が出来ていた家族が再び結びついて行くシーンには、まやかしであってさえも前向きな行動がもたらす静かな希望が見えて来て、それがアメリカ中西部のだだっ広いスペースと色彩の無いモノクロ映像によって増幅し、不思議な爽快感が全体を支配しているのは面白かった。
ラストの、今まで乗ってきた日本車のスバル・レガシィをフォードのピックアップトラックに買い替えて、それを父親へプレゼントするシーンは、ネブラスカ州出身のアレクサンダー・ペインによる古き良きアメリカの郷愁も込められていて、それがこの映画のテーマの一つでもあった。
→アレクサンダー・ペイン→ブルース・ダーン→アメリカ/2013→新宿武蔵野館→★★★☆