監督:ジョエル&イーサン・コーエン
出演:オスカー・アイザック、キャリー・マリガン、ジョン・グッドマン、ギャレット・ヘドランド、ジャスティン・ティンバーレイク、F・マーリー・エイブラハム、スターク・サンズ、ジーニー・セラレス、アダム・ドライバー、イーサン・フィリップス、アレックス・カルボウスキー、マックス・カセラ、クリス・エルドリッジ、ベンジャミン・パイク
原題:Inside Llewyn Davis
制作:アメリカ/2013
URL:http://www.insidellewyndavis.jp
場所:新宿武蔵野館
マーティン・スコセッシ監督のドキュメンタリー映画『ボブ・ディラン ノー・ディレクション・ホーム』は面白かった。「ボブ・ディラン」の名前は知っているし、曲もいくつかは知っているけど、彼が活躍した時代のフォーク・シーンと云うものがいったいどんな雰囲気を湛えたものだったのか、どうやって大衆に受け入れられて行ったのかはもちろんまったく知らなかった。このドキュメンタリーを見て、それが曲がりなりにも理解できたような気がした。
1961年、ボブ・ディランは大学を中退してニューヨークに出て来る。そして、グリニッジ・ヴィレッジ周辺のクラブやコーヒーハウスなどで弾き語りをはじめる。『ボブ・ディラン ノー・ディレクション・ホーム』はその当時のグリニッジ・ヴィレッジがどんなものだったのか様々な人の証言で語られて行く。
その証言者の中にデイヴ・ヴァン・ロンクがいた。ボブ・ディランと同じように、1960年代のグリニッジ・ヴィレッジで活躍していたミュージシャンで、ボブ・ディランにして「荒々しさと繊細さの両方を兼ね備えたパフォーマーだった」と云わしめたフォークシンガーだった。そのデイヴ・ヴァン・ロンクの回想録を元にした映画がジョエル&イーサン・コーエン監督の『インサイド・ルーウィン・デイヴィス 名もなき男の歌』だった。
映画の中の主人公の名前は「ルーウィン・デイヴィス」となっているが、デイヴ・ヴァン・ロンクのアルバムに「インサイド・デイヴ・ヴァン・ロンク」があるように、それはまさしくデイヴ・ヴァン・ロンクのストーリーらしい。ただ、ライターの高橋健太郎は「モデルはヴァン・ロンクだけじゃなく、フィル・オクスなども混じってるのかも」と云っている。
ジム&ジーンと親しかったのは、デイヴ・ヴァン・ロンクではなくて、フィル・オクスなのだな。モデルはヴァン・ロンクだけじゃなく、フィル・オクスなども混じってるのかも。ジム&ジーンのジーン・レイは2007年に死去。 http://t.co/FsgLa7fWa7 …
— kentarotakahashi (@kentarotakahash) 2014, 6月 2
このTweetに出てくるジム&ジーンを映画ではジャスティン・ティンバーレイクとキャリー・マリガンが演じている。そしてピーター・ポール&マリーの歌で有名な「500miles」を謳う。この曲は、ほんと、大好き。
そんな1960年代のフォーク・シーンをベースに映画は進んで行くけれども、テーマとしては今までに映画として何度も取り上げられて来たダメダメな男のストーリーだった。お金がないので友人の家を泊まり歩き、酔っては他人の歌にケチをつけ、知り合いの彼女を妊娠させては中絶の費用を他人に借りようとする、まったくどうしようもない男のストーリーだった。そしてこれも過去に何度も取り上げられて来たテーマでもある「ミュージシャンとしての才能の見極め」をしなければならない段階に差し掛かった男のストーリーでもあった。だから、映画としての目新しさはまったくない。でも、なんだろう、不思議なダメさ加減が漂っている。それはルーウィン・デイヴィスが謳う歌(実際にオスカー・アイザックが歌っている)に寄るところが大きいのかもしれない。F・マーリー・エイブラハムが演じるバド・グロスマン(実際の有名プロデューサーらしい)が云うように「お金の匂いがまったくしない歌」は、可もなく不可もなく、歌詞も中途半端に諦観していてまったく捉えどころがない。そのスルリと人の手からすり抜けて行くような、まるでこの映画に出てくる名も無き猫のような歌は、微妙に男のダメさ加減を中和している。そこが面白かった。
最後に猫の名前が判明する。名前は「ユリシーズ」と云う。そうか、『シリアスマン』ではヨブ記だったが、今回はジェイムズ・ジョイスの「ユリシーズ」だったのか。読んでみるべきか。
→ジョエル&イーサン・コーエン→オスカー・アイザック→アメリカ/2013→新宿武蔵野館→★★★☆