監督:ヤン・ドマジュ
出演:ジャック・オコンネル、ポール・アンダーソン、リチャード・ドーマー、ショーン・ハリス、バリー・キーガン、マーティン・マッキャン、チャーリー・マーフィ、サム・リード、キリアン・スコット、デビッド・ウィルモット
原題:’71
制作:イギリス/2014
URL:http://www.71.ayapro.ne.jp
場所:新宿武蔵野館
北アイルランド紛争を描いた映画ならば何でも見たいので、知っている俳優がまったく出ていないにもかかわらずおもわず観に行ってしまった。そうしたらこれが拾いモノだった。拾いモノどころか、素晴らしい映画だった。
60年代から70年代に起きた北アイルランド紛争を描いた映画やドキュメンタリーは、そのほとんどがカトリック系から見たもので、イギリス側の軍隊などは個々の顔のまったく見えない冷酷無比な集団でしかなかった。ところがこの映画はイギリス軍側から描いた映画だった。それがまずは斬新だった。
イギリス軍の部隊を指揮する中尉がとても爽やかな人物で、武装する必要なんかないんだよ、俺たちはプロテスタント、カトリックにかかわらず市民の見方なんだよ、とかなんとか言って、武装せずにベレー帽だけでのこのこカトリック系地区に行ってしまう。途端に集団に囲まれて、ヤジを浴びせかけられ、唾を吐きかけられ、投石にも合い、イギリス軍側に怪我人を出してしまう。さらに子供に銃を奪われて、それを取り返しに行った二人の兵士のうち一人は顔面に銃弾を受けて即死。もう一人も必死に逃げるもカトリック系地区に取り残されてしまう。
この最初の導入部分が巧かった。平和ボケなイギリス軍中尉の軍隊への指示から始まって、カトリック系住民が徐々に怒りを募らせて行き、人の良さそうなイギリス軍の若い兵士がいきなり顔面に銃弾を受けて卒倒する場面へと続く流れは、最初は小太鼓だけから始まって、どんどんと木管楽器が加わって、最後にはフルオーケストラが奏でるラヴェルの「ボレロ」のようだった。イギリス軍がカトリック地区へ入って来たときに、そこに住んでいる女たちが自分の家の前に出てきて、周りに危険を知らせるかのようにゴミ箱のふたやフライパンなどで道路をずっとガンガン叩きつけていたけれど、それがこの連続したシーンの伴奏のように聞こえて来るほどだった。
入隊したばかりのイギリス軍兵士(ジャック・オコンネルが演じている)が、カトリック側の過激派に追われて必死に逃げ惑うシーンのカットのリズムも良くて、薄暗い画面からも緊迫感がひしひしと伝わってくる。細かい路地が入り組んでいるカトリック系地区の不気味さも半端なくて、この先が行き止まりなんじゃないかと云う恐怖が絶えずつきまとう。これではリアルなジョン・カーペンターの『ニューヨーク1997』じゃないか、とおもってしまった。
追いかけられていた兵士がやっとプロテスタント地区に逃げ込んで、その地区を仕切っているかのような口ぶりで話す大人びた子供とのやり取りが可愛らしいエピソードとして挟み込まれて、ホッと一息をついたのもつかの間、二人のいたバーで爆弾が大爆発。かろうじて命を取り留めた兵士の見たものは片腕を失ったその子供の死体だった。と、その落差に愕然となってしまう。
イギリス軍側も人の良い中尉や若い兵士だけではなくて、もちろん暗躍する工作員やそれを取り仕切っている将校(にはまったく見えないけど、中尉の上司なんだから将校なんでしょう)のうさん臭さもしっかりと描いていて、このようにそれぞれのシーンに強弱をつけて、そのコントラストを強めにしながら北アイルランド紛争の複雑さを明確にして行くところも素晴らしかった。
そして、イギリス軍を民衆が取り囲む最初のシーンから何となくカメラのフォーカスが合っていたカトリック系住民の若い男の子(妹に優しい兄)と逃げ惑う若いイギリス軍兵士(寄宿舎に預ける弟に優しい兄)との関係を徐々に結びつけて行って、ラストの辛い対決シーンへと収斂して行く部分を映画の骨格に据えている構成も良かった。
ふらりと観た映画がことのほか良かった場合にはその採点が甘くなるけど、この映画はそれを超えていたようにおもう。とても面白かった。
→ヤン・ドマジュ→ジャック・オコンネル→イギリス/2014→新宿武蔵野館→★★★★