野火

監督:塚本晋也
出演:塚本晋也、リリー・フランキー、中村達也、森優作、中村優子、山本浩司、上高貴宏、入江庸仁、辻岡正人、山内まも留
制作:海獣シアター/2014
URL:http://nobi-movie.com
場所:ユーロスペース

今回の塚本晋也版を見てから、市川崑版を見直した。

二つの映画の印象を大きく異にさせているのは、視覚的、音響的に訴えるリアルでグロテスクな描写が塚本晋也版には多いことも然る事ながら、「永松」を演じているミッキー・カーチス(市川崑版)と森優作(塚本晋也版)とのキャラクター設定の違いもとても大きいとおもう。

ミッキー・カーチスの「永松」は飄々とした感じの世渡りの上手そうな人物として描かれていて、そこには人間の持つ愛らしさも一緒に見えて、殺し合って、飢えて、共食いするような行動にさえ、どこか小動物的な愛おしささえ感じてしまう。市川崑版『野火』の脚本を書いた和田夏十は、餓死に直面した人間が人肉を喰う、と云う重いテーマを、このミッキー・カーチスの「永松」のキャラクターで持って中和させて、極限的状況に追いつめられた人間が取る行動のバカらしさ、間抜けさ、でも憎めない愛らしさを最大限見つめ直した映画に仕立て上げていたような気がする。

森優作の「永松」にはそこまで人間としての面白さは感じられなくて、だからますます残虐さが際立っていて、映画の最初から最後まで人間の気持ち悪さしか感じることが出来なかった。もちろん塚本晋也はそこにポイントを置いて描いていて、だからそのどうしようもなく過酷、苛烈、醜悪な体験をすることができるこそがこの映画のすべてであって、市川崑版にくらべるととても人間を突き放した辛辣な映画にでき上がっている。

原作を同じにしていながらまったくタイプの違う映画だった。だからどちらが良い、悪いとは決めつけることがまったくできない。でも、個人的な好みから云えばやっぱり和田夏十の描いた市川崑版かなあ。

→塚本晋也→塚本晋也→海獣シアター/2014→ユーロスペース→★★★☆