監督:岩井俊二
出演:アイナ・ジ・エンド、松村北斗(SixTONES)、黒木華、広瀬すず、村上虹郎、松浦祐也、笠原秀幸、粗品(霜降り明星)、矢山花、七尾旅人、ロバート・キャンベル、大塚愛、安藤裕子、鈴木慶一、水越けいこ、江口洋介、吉瀬美智子、樋口真嗣、奥菜恵、浅田美代子、石井竜也、豊原功補、松本まりか、北村有起哉
制作:Kyrie Film Band/2023
URL:https://kyrie-movie.com
場所:109シネマズ菖蒲

岩井俊二の新作は元BiSHのアイナ・ジ・エンドを主役にした音楽映画(と云うことを前面に押し出している)。

BiSHの名前は聞いたことがあったけれど、そのメンバーの名前まではまったく知らなかった。だからはじめてこの映画でアイナ・ジ・エンドの歌を聞いた。その歌声はまるで泣きじゃくっているような強烈さがあって、たしかに、なかなかいい感じ。

でもストーリーは、まるで『花とアリス』のような女ふたりの不思議な友情の話しのようでもあるし、『リップヴァンウィンクルの花嫁』のような女性の彷徨の話しのようでもあるし、今までの岩井俊二ワールドの域から出ることは寸分もなかった。男が女の妊娠させてしまって、その扱いに苦慮するあたりは、あまりにも使い古されたシチュエーションすぎるので、そこに東日本大震災を絡めたりするあざとさも相まって、ちょっと鼻白んでしまった。まあ、だから、アイナ・ジ・エンドの歌声を聞く音楽映画であることを前面に出すことは正解だった。

あざとさで云えば、我々の世代にとってのオフコースの「さよなら」と久保田早紀の「異邦人」は、魂の曲と云えばいいのか、郷愁を感じさせる曲と云えばいいのか、曲が流れてくればおもわず口ずさんでしまうし、云いようもないおもいにもかられるし、それをアイナ・ジ・エンドの吐き出すような歌声で聞かされるとちょっと心揺さぶられてしまった。音楽のちからは偉大だ。

→岩井俊二→アイナ・ジ・エンド→Kyrie Film Band/2023→109シネマズ菖蒲→★★★☆

監督:リチャード・リンクレイター
出演:ケイト・ブランシェット、ビリー・クラダップ、エマ・ネルソン、クリステン・ウィグ、ジュディ・グリア、ローレンス・フィッシュバーン
原題:Where’d You Go, Bernadette
制作:アメリカ/2019
URL:https://longride.jp/bernadette/
場所:MOVIXさいたま

2019年にリチャード・リンクレイターが撮った映画がやっと日本で公開された。邦題は『バーナデット ママは行方不明』。なにやらドタバタコメディを連想させるタイトルだけれど、コメディの要素はちょっとだけ、中心となるのは創造的な面で特異な才能を持つ人物が平凡な生活を余儀なくされたときに見せる苦悩の姿だった。

ケイト・ブランシェットが演じるバーナデット・フォックスはかつて、半径20マイル以内で調達した材料だけを使って建てた「20マイルの家」や使い捨ての遠近両用メガネを数多く使って建てた「メガネ邸(Beeber Bifocal House)」など、創造性のある個性的な建築家として注目を集めていたが、彼女が建てた「20マイルの家」に関してイギリスのテレビ番組ホスト、ナイジェル・ミルズ・マリーとの間に起こったトラブルを機に建築設計の仕事を辞めてしまう。そして、夫の仕事の都合でロサンゼルスからシアトルに移り住んで娘一人を育てる専業主婦になっている。

でも、クリエイティブな才能を持つ人物が平凡な人たちとの近所付き合いなどが出来るはずもなく、隣に住む主婦(“毒女”と呼んでいる!)と騒動を起こしてばかりいる。もちろんママ友の輪に加わることもなく、唯一のよりどころは娘のビー(エマ・ネルソン)だけだった。その娘が親元から離れて寄宿学校へ行くことになって、その前に家族三人で南極旅行へ行きたいと云い出す。広場恐怖症(アゴラフォビア)を持つバーナデットは、娘と旅行へ行きたい気持ちもあるのだけれど、揺れる狭い船に長時間乗せられる恐怖もあって、行くべきか、理由をつけて断るべきか葛藤する。

トッド・フィールド監督の『TAR/ター』(2022)で天才指揮者「TAR」を演じたケイト・ブランシェットは、その前にもまた違った角度からこの天才を演じていた。こちらの天才は精神症から来る不安を解消するために薬に依存してしまっているのだけれど、その不安定さが哀れには見えなくて、どちらかと云えばちょっと滑稽に見えるところがとても愛すべき人間になっていた。芸術家肌を持つ人間が、その創造性を発揮する場を失ってしまったらどうなるのか? ケイト・ブランシェットはそんな難しいキャラクターを巧く演じている。

ただ、ラストに向かっての南極行きは、バーナデットが自分を取り戻して行く過程を描く重要な部分なのに、あまりにも時間が足りなくてドタバタしてしまっているところは惜しかった。最近の映画は、長い! と文句ばかり云ってるけれど、いやここはもっと長くて良いでしょう。

エンドクレジットの背景に映る、バーナデットが設計したとおもわせる南極基地は、AECOMと云うところが設計、建築したイギリスのハレー VI 研究ステーションらしい。あまりにもカッコイイので、バーナデット作と見せるのはうってつけの建造物だ。

→リチャード・リンクレイター→ケイト・ブランシェット→アメリカ/2019→MOVIXさいたま→★★★☆

監督:川瀬美香
出演:イザベル・タウンゼンド、谷口稜曄、ピーター・タウンゼンド
原題:The Postman from Nagasaki
制作:The Postman from Nagasaki Film Partners/2021
URL:https://longride.jp/nagasaki-postman/
場所:武蔵大学50周年記念ホール

「被爆者の声をうけつぐ映画祭」も17回目になって、今回は川瀬美香監督の『長崎の郵便配達』を観に行った。

いつものごとく、なんの予備知識も入れずに、タイトルに「長崎」が付いているという手がかりだけで映画を観はじめた。だから、イギリス人女性イザベル・タウンゼンドのモノローグによって映画がはじまったことに不思議な感覚を覚えた。でもすぐに、彼女の父親ピーター・タウンゼンドが長崎で被ばくした男性・谷口稜曄(すみてる)さんを取材して書いたノンフィクション小説「THE POSTMAN OF NAGASAKI」について話しはじめたことで、この映画が「被爆者の声をうけつぐ映画祭」で上映されることに納得した。

谷口稜曄さんの名前は、彼が亡くなったときのニュースではじめて知った。原爆によって背中に大火傷を負い、その患部の写真を見せながら核兵器廃絶のための活動を続けた人物だった。

日本人でさえその程度の知識しかないわけなのに、イギリスの空軍大佐であったピーター・タウンゼンドがわざわざ長崎にまで出向いて、谷口稜曄さんの原爆体験を取材して本にしていることにびっくりした。そしてその本が日本では何の話題にもならずに、ましてや翻訳などもされずに(後からの注記:ナガサキの郵便配達制作プロジェクトと云うところから2018年に日本語版が出てた!)、ひそかに存在しているだけの書物であることにますます驚いた。ピーター・タウンゼンド空軍大佐はマーガレット王女と浮き名を流し、映画『ローマの休日』のモデルにもなったとも云われる(どうやらそれは眉唾ものらしい)人物で、彼が被爆者のことについて本を書いたのならそれなりの話題性もあっただろうに。

娘が父親の偉業を再認識して行く映像と共に、この映画を観る日本人も一緒にピーター・タウンゼンドと云うイギリス人が被爆者と交流を深めた事実を認識することが共有できてとても良かった。人知れず存在する偉業を明らかにしてくれることがドキュメンタリー映画の一つの醍醐味だとおもう。

→川瀬美香→イザベル・タウンゼンド→The Postman from Nagasaki Film Partners/2021→武蔵大学50周年記念ホール→★★★☆

監督:森達也
出演:井浦新、田中麗奈、永山瑛太、柄本明、ピエール瀧、水道橋博士、東出昌大、コムアイ、松浦祐也、木竜麻生、向里祐香、杉田雷麟、カトウシンスケ、碧木愛莉、豊原功補
制作:「福田村事件」プロジェクト/2023
URL:https://www.fukudamura1923.jp
場所:イオンシネマ春日部

1923年(大正12年)9月1日に起きた関東大震災後の混乱の中、朝鮮人が凶悪犯罪や暴動を行っているとの噂が広まり、民衆・警察・軍によって朝鮮人、またそれと間違われた中国人、日本人などの多くが殺された。その中の、日本人が朝鮮人と間違われて殺された事件の一つが福田村事件だった。

福田村事件とは、1923年(大正12年)9月6日、香川県からの薬の行商団15名が千葉県東葛飾郡福田村(現在の野田市)で地元の福田村および田中村(現柏市)の自警団によって、おまえたちは朝鮮人じゃないか? と疑惑をかけられ、その中の9名が殺害された事件だった。

デマによって一般の人たちが疑心暗鬼になって、そこに集団心理も働いて、普段ならば考えられないおかしな行動を起こす人が多く現れてしまう現象は、関東大震災が起きた1923年でも、福島第一原子力発電所事故が起きた2011年でもまったく同じだった。それはさらに情報が無駄に拡散する現在でもますます起きやすくなっていることをおもうと、人間の心理的な面をアップデートさせるにはどうしたら良いんだろうかと考えてしまう。クローネンバーグが『クライムズ・オブ・ザ・フューチャー』で描いていた苦痛を感じない人類進化以外にあり得ないのかなあ。

フェイクニュースやデマが簡単にSNSで広がる世界になったいま、森達也が監督した『福田村事件』で、デマで突き動かされていまう人間のどうしようもない生態を見るのは意味のあることだとはおもうのだけれど、この映画では同時に人間の欲情の生態をも見せている。それも主に女性の欲求不満から来るとおもわれる生態を。このふたつを同時見せる意味は何だったんだろう。そこがさっぱりわからなかった。

久しぶりに福田村に戻ってくる澤田智一(井浦新)と澤田静子(田中麗奈)夫婦がこの福田村事件の目撃者であるような構成も中途半端だった。だったら、完全なドキュメンタリードラマに徹しても良かったのに。

→森達也→井浦新→「福田村事件」プロジェクト/2023→イオンシネマ春日部→★★★

監督:ウェス・アンダーソン
出演:ジェイソン・シュワルツマン、スカーレット・ヨハンソン、トム・ハンクス、ジェフリー・ライト、ティルダ・スウィントン、ブライアン・クランストン、エドワード・ノートン、エイドリアン・ブロディ、リーヴ・シュレイバー、ホープ・デイヴィス、スティーヴン・パーク、ルパート・フレンド、マヤ・ホーク、スティーヴ・カレル、マット・ディロン、ホン・チャウ、ウィレム・デフォー、マーゴット・ロビー、ジェイク・ライアン、グレース・エドワーズ、ジェフ・ゴールドブラム
原題:Asteroid City
制作:アメリカ/2022
URL:https://asteroidcity-movie.com/
場所:ユナイテッド・シネマ浦和

ウェス・アンダーソンの映画がやって来るとつい観に行ってしまうのに、それでもやっぱりウェス・アンダーソンの映画は訳がわからない。その訳のわからなさを面白がるために観に行くのが正解だとはおもうのだけれど、映画を観終わるといつもモヤモヤして映画館を去ることになる。

今回の『アステロイド・シティ』は、1950年代のアンソロジーテレビ番組が伝説の劇作家のコンラッド・アープ(エドワード・ノートン)を紹介するかたちで彼の劇を映画として見せていく。まず、そこが訳がわからない。演劇と云う閉ざされた「場」で見せる劇を映画へと置き換えたときに、カメラの横移動で「場」を見せていく面白さ、なのかもしれないけれど、うーん、そこが面白いような、面白くないような。

劇の舞台はアメリカ南西部に位置する砂漠の街アステロイド・シティ。そこで開かれるジュニアスターゲイザー賞(若き優秀な科学者を発掘する賞みたいなもの?)に招待された子供と親たち。それぞれの家族の事情が交錯する面白さ。うーん、面白いような、面白くないような。いつもながらキャストが豪華なのは楽しい。

アステロイド・シティは隕石が落下してできた巨大なクレーターが最大の観光名所。それが関係してなのか、ジュニアスターゲイザー賞の授賞式真っ最中に飛来してくるエイリアンの唐突さ。エリア51を彷彿とするような、ジョーダン・ピール『NOPE/ノープ』をおもい出させるような。うーん、面白いような、面白くないような。いや、エイリアンがジェフ・ゴールドブラムなのは面白い!

全体的に1950年代のテレビ番組が劇作家を紹介する体を取っているので、アメリカの古き良き50年代テーストになっているところがとてもお洒落。うーん、いつもながらウェス・アンダーソンの映画はカッコイイ。

スタイリッシュな映像に幻惑されながら全編を通して楽しめはするけど、やっぱり自分にとって面白いとはおもえないところがいつものウェス・アンダーソンの映画。でもまた次作を観に行ってしまうのだろうなあ。

→ウェス・アンダーソン→ジェイソン・シュワルツマン→アメリカ/2022→ユナイテッド・シネマ浦和→★★★

監督:デヴィッド・クローネンバーグ
出演:ヴィゴ・モーテンセン、レア・セドゥ、クリステン・スチュワート、スコット・スピードマン、ドン・マッケラー、ヴェルケット・ブンゲ
原題:Crimes of the Future
制作:カナダ、ギリシャ/2022
URL:https://cotfmovie.com
場所:MOVIXさいたま

デヴィッド・クローネンバーグの映画と云えば、彼が注目され始めた『スキャナーズ』(1981)『ヴィデオドローム』(1983)や興行的に成功した『ザ・フライ』(1986)のような、アンダーグランドに蠢く得体のしれないものに支配されはじめる世界を描くことが多くて、バイオメカニズム的な、ぐちゃぐちゃっとした、尋常な人ならば生理的に受け付けることがとても難しい訳の分からない物体を登場させて、我々を不安に落とし入れることを得意とするスタイルを持っていた。それはずっと『危険なメソッド』(2011)まで続いていたとおもう。

ところが『コズモポリス』(2012)『マップ・トゥ・ザ・スターズ』(2014)と、やたらと洗練された映像の映画を撮るようになってしまって、ああ、クローネンバーグも時代に合わせて変貌してしまったんだなあ、と少し残念に感じていた。

そして、ついに映画も撮らなくなって(撮れなくなって?)、終わりなのかな、とはおもっていた。

そこに突然、8年ぶりに『クライムズ・オブ・ザ・フューチャー』がやって来た。どんなもんだろう? と観てみると、これ、これ! これこそがクローネンバーグの映画だ! とおもわせる、ぐちゃぐちゃ、ぬるぬる、めりめり、の映画が復活していた。やっぱりこれじゃなくっちゃ、と喜ぶと同時に、これはいったい何を意味するんだろうと考えてしまった。内容も、パンデミックを経験した現実世界に呼応するようなストーリーで、宮崎駿の『君たちはどう生きるか』と同じクローネンバーグの遺書のような引退作品になるんじゃないかと勝手に想像してしまった。

と変な勘ぐりをしていたら、次回作『The Shrouds』が発表されていた。

https://eiga.com/news/20220531/15/

「妻の死に喪失感を抱える革新的な実業家カーシュ(バンサン・カッセル)が、埋葬された死体と繋がることのできるデバイスを開発するというストーリー」だそうだ。まだまだ、クローネンバーグの、ぐちゃぐちゃ、ぬるぬる、めりめり、は続く。

→デヴィッド・クローネンバーグ→ヴィゴ・モーテンセン→カナダ、ギリシャ/2022→MOVIXさいたま→★★★☆

監督:クリストファー・マッカリー
出演:トム・クルーズ、ヘイリー・アトウェル、ヴィング・レイムス、サイモン・ペッグ、レベッカ・ファーガソン、ヴァネッサ・カービー、イーサイ・モラレス、ポム・クレメンティエフ、ヘンリー・ツェニー
原題:Mission: Impossible – Dead Reckoning Part One
制作:アメリカ/2023
URL:https://missionimpossible.jp
場所:MOVIXさいたま

アメリカのテレビドラマ『スパイ大作戦』をベースにした映画「ミッション:インポッシブルシリーズ」も、その第一期とも云える『ミッション:インポッシブル』(1996年)『M:I-2』(2000年)『M:i:III』(2006年)は主にサスペンスに重きを置いている映画だったようにおもう。ところがそのあとの第二期とも云える『ゴースト・プロトコル』(2011年)『ローグ・ネイション』(2015年)『フォールアウト』(2018年)になると、VFX撮影技術の進化もあってか、いかにして観客の度肝を抜くアクション・シーンを見せられるかの品評会のような様相を呈してきた。それはそれで、そう云う映画と割り切って観れば楽しめる映画ではあったけれど、いくらなんでもパターン化してしまって飽きが来る段階に入ってきたんじゃないかとおもっていた。

ところが『デッドレコニング PART ONE』は、市街地でのカーチェイスであったり、疾走する列車の屋根上での格闘であったりと、活動写真が登場したころから続く古典的なアクションのシチュエーションを使いながらも、それはわざとそうしているのであって、そのような古臭い状況でも、これだけのスリルを味わえるんだぜ、の見せ場を作ってくる自信満々な態度が素晴らしかった。

でも、崖から飛び降りたトム・クルーズが、パラシュートを使いながら暴走するオリエント急行の窓に突っ込むシーンはあまりにもやりすぎな感じが満載で、もう笑ってしまうほどだった。アクションでもホラーでも、やりすぎると笑えると云う、映画においてコメディこそが頂点に君臨するんだなと改めて認識できる映画だった。

そうそう、それから、スパイ映画において、CIAを間抜けに描いて、MI6を優秀に描く設定って、どうしてなんだろう?

→クリストファー・マッカリー→トム・クルーズ→アメリカ/2023→MOVIXさいたま→★★★☆

監督:グレタ・ガーウィグ
出演:マーゴット・ロビー、ライアン・ゴズリング、ケイト・マッキノン、イッサ・レイ、ハリ・ネフ、アレクサンドラ・シップ、エマ・マッキー、シャロン・ルーニー、デュア・リパ、ニコラ・コクラン、アナ・クルーズ・ケイン、リトゥ・アルヤ、マリサ・アベーラ、キングズリー・ベン=アディル、シム・リウ、スコット・エヴァンス、チュティ・ガトゥ、ジョン・シナ、マイケル・セラ、エメラルド・フェネル、アメリカ・フェレーラ、アリアナ・グリーンブラット、ウィル・フェレル、コナー・スウィンデルズ、ジェイミー・デメトリウ、リー・パールマン、ヘレン・ミレン(ナレーター)
原題:Barbie
制作:アメリカ/2023
URL:https://wwws.warnerbros.co.jp/barbie/
場所:ユナイテッド・シネマ浦和

1959年3月にアメリカのマテル社から発売された女の子向けの人形玩具「バービー」は、日本では1967年に発売されたタカラの「リカちゃん」人形が爆発的な人気を得てしまったために市場に入り込む余地がなくなってしまったけれど、その後もタカラと提携したり、バンダイと提携したりと、日本でもある程度は認知度はある人形玩具になった。

世界中で大ヒットした人形玩具「バービー」だとしても、その映画化を女性たちは観るんだろうかと頭の中にはクエスチョンマークがいっぱいだった。でも、映画館での予告編を観たり、SNSで事前情報を得たりすると、単純なおもちゃに関する映画ではなくて、昨今の時流に合わせたジェンダーフリーに関する映画に仕上げているようなので、グレタ・ガーウィグが監督することもあって観に行くことにした。

女の子が必ずと云って良いほど夢中になる人形玩具と云うものが、人形で遊ぶことが「女らしい」と考える周りの大人たちからの働きかけによることが大きいのだとすると、そのような旧弊な考え方が女性と云うものをある一定の枠に押し込めてしまって、女性の社会進出を阻める役割を担ってきたとも云えるのかもしれない。

このことがこの映画が作られたポイントではないかと考えて観始めた。

マーゴット・ロビーが演じている「バービー」は、女性のために作られた見せかけの理想である「バービーランド」から抜け出て、現実の人間社会でのさまざまな女性たちを見ることによって、自分の置かれている立ち位置を理解して「自立」しはじめる。

と云うようなところまでは考えていた通りだった。

でもグレタ・ガーウィグは、フェミニズム一辺倒の映画にはしなかった。「バービー」に添え物のように存在している男の人形「ケン」からの視点を入れたり、グレタ・ガーウィグが『レディ・バード』でも見せたような母娘の視点を取り入れたりと、そうすることによってもっと総合的な視点からの女性映画に仕上げていた。

最後、人間の世界での生活をはじめた「バービー」が婦人科に行って「婦人科検診に来ました!」と言って映画は終わる。これはいったい何を意味するのかとグレタ・ガーウィグのインタビューを読んだら、

https://www.cinra.net/article/202308-gretagerwig_gtmnm

「バービーが最後にすることはすごく普通なことだから、逆に響くんじゃないかなって考えたんです。」
「あれが勝利だとしたら最高じゃないですか? 勝利のかたちが「普通なことをすること」って。」

と云っていた。なるほどねえ、奥深い映画だった。さすがグレタ・ガーウィグだった。

→グレタ・ガーウィグ→マーゴット・ロビー→アメリカ/2023→ユナイテッド・シネマ浦和→★★★☆

監督:宮﨑駿
声:山時聡真、菅田将暉、柴咲コウ、あいみょん、木村佳乃、木村拓哉、風吹ジュン、大竹しのぶ、阿川佐和子、火野正平、小林薫、竹下景子、國村隼、滝沢カレン
制作:スタジオジブリ/2023
URL:
場所:109シネマズ木場

2013年にスタジオジブリから宮崎駿が『風立ちぬ』を最後に長編映画の制作から引退することが発表された。出た! またやめるやめる詐欺だな、とはおもったけれど、そこは厳粛に受け止めることにした。でも、絶対にいつかはカムバックしてくると確信していた。

案の定、2017年に宮崎駿が長編映画の制作に復帰したことが鈴木敏夫から公表された。宮崎駿自身は「自分は引退中であり、引退しながらやっている」と云っているらしい。うーん、「引退」とは?

「引退しながらやっている」の意味として考えられるのは、みんなが期待しているようなジブリ映画ではないものを作っている、ではないかとおもって、そこ一点だけを期待して観に行った。

ところが、普通の宮崎駿のジブリ映画だった。世界観の設定、キャラクターの役割、ストーリー展開と、すべてが今まで通りだった。だとしたら、引退しながらもこの映画を作る意義がどこにあるのかと。ひとつの手がかりとしては、2013年の引退会見のときに宮崎駿が云っていた「この世は生きるに値すると子供に伝えたい」だった。英国の児童文学作家のロバート・ウェストールが云った「この世はひどいものである。君はこの世に生きていくには気立てがよすぎる」を引き合いに出し、これからの世代を担う子どもたちに「この世は生きるに値する」について考えながら生きてほしいとのメッセージを残していた。

https://www.nikkei.com/article/DGXNZO59386140W3A900C1000000/

その引退時のおもいを実現させたのがこの『君たちはどう生きるか』ではなかったのか。だから「引退」しながらも作る必要があったのではないか。これで宮崎駿は本当に引退するかもしれない。

→宮﨑駿→(声)山時聡真→スタジオジブリ/2023→109シネマズ木場→★★★☆

監督:ジェームズ・マンゴールド
出演:ハリソン・フォード、フィービー・ウォーラー=ブリッジ、アントニオ・バンデラス、ジョン・リス=デイヴィス、シャウネット・レネー・ウィルソン、トーマス・クレッチマン、トビー・ジョーンズ、ボイド・ホルブルック、オリヴィエ・リヒタース、イーサン・イシドール、マッツ・ミケルセン、カレン・アレン
原題:Indiana Jones and the Dial of Destiny
制作:アメリカ/2023
URL:https://www.disney.co.jp/movie/indianajones-dial
場所:ユナイテッド・シネマ浦和

スティーヴン・スピルバーグ監督の『レイダース/失われたアーク《聖櫃》』が公開された1981年当時、ツルモトルームから刊行されていた「スターログ日本版」を熱心に愛読していて、そこでの『レイダース/失われたアーク《聖櫃》』公開カウントダウンのような様相に否が応でも盛り上がってしまって、ウキウキしながら公開初日を迎えたことをよく覚えている。だから今でもジョン・ウィリアムスのテーマ曲が流れると心躍らされてしまう。

そのインディ・ジョーンズ・シリーズの4作目『インディ・ジョーンズ/クリスタル・スカルの王国』が公開されてから15年も経って、驚くことに5作目の新作がやってきた。なぜ、いま? と云うおもいはあるのだけれど、予告編でジョン・ウィリアムスのテーマ曲を聞かされるとウキウキしてしまう条件反射が身についてしまっていた。

たしか『レイダース/失われたアーク《聖櫃》』の脚本を書いたローレンス・カスダンは、昔の連続活劇の映画を参考にしたと語っていたような気がする。主人公が危機一髪に陥って「to be continued」になる。いったいどうやって危機を乗り切るんだろう? と期待しながら次作をを待つ楽しみが連続活劇にはあった。そのワクワク感を映画に持ち込んだ脚本が『レイダース/失われたアーク《聖櫃》』だった。

インディ・ジョーンズ・シリーズの1作目『レイダース/失われたアーク《聖櫃》』はまさに主人公の危機一髪の連続だった。予告編のときから使用されていた狭い洞窟の中を丸い大きな石がこちらに向かって転がって来るビジュアルなんて、まさにインディ・ジョーンズを象徴するシーンだった。そんな馬鹿げたビジュアルを、それでいて映画としては映えるビジュアルを大真面目に実現しているのがインディ・ジョーンズ・シリーズだった。

今回のインディ・ジョーンズ・シリーズ5作目『インディ・ジョーンズと運命のダイヤル』は、監督がスピルバーグからジェームズ・マンゴールドに変わってしまった。けれども、スピルバーグ版インディ・ジョーンズのエッセンスをしっかりと継承していて、悪漢に取り囲まれるシーンあり、すんでのところで脱出するシーンあり、おびただしい数のムカデが出るシーンあり、顔面パンチありと、オマージュとも捉えることのできるシーンの連続だった。ただ、ローレンス・カスダンが脚本の元とした連続活劇には、短いエピソードが「to be continued」でつながる小気味よさがあるはずだった。ところが154分もの長尺の映画になってしまうと、ひとつひとつのエピソードが間延びして、軽快さはほとんど消え失せてしまっていた。それが残念だった。

最近の映画はどれも長すぎる。映画の上映時間は1時間30分から2時間が基本だよなあ。

→ジェームズ・マンゴールド→ハリソン・フォード→アメリカ/2023→ユナイテッド・シネマ浦和→★★★☆